のぶ代と少年

平日の昼下がり。

長年の激務から開放されたのぶ代は、近所の公園で一人のんびりとしていた。

夕暮れにさしかかった頃、砂場で遊ぶ一人の少年をみつける。

小学校低学年と見られるその少年は、小さい体に似合わない大きな黒ぶちの眼鏡をかけ、一人黙々と砂山を作る。

「おばちゃんもお手伝いしていいかな?」

少年はパッと顔をあげ、か細い声で「うん・・いいよ」と答えた。

少年の横に座り、砂山に砂をかけていくのぶ代と少年。

「一人で遊んでるの?お友達とは遊ばないのかな?」

砂山にまっすぐ視線を向けたまま、少年は答える。

「僕・・・今日は友達と喧嘩しちゃったんだ・・・
あいつすっごい凶暴な奴でさ、気にいらないとすぐ僕の事殴るんだよ」

のぶ代は目を細めながら少年を見つめる。

あぁ君みたいな子を、私はずっと知っているよ・・・と。

「僕ちゃん、ドラえもんてアニメ知ってる?」

「知ってるよ。僕タケコプターが欲しいな。あれがあれば毎日遅刻なんかしないのに!」

「おばちゃんね、ドラえもんの物真似ができるんだよ」

「本当に?やってみせてよ!」

少年は初めて小さな笑顔を見せてくれた。

「ノビ太くん、ジャイアンなんかに負けるな!僕がついてるよ!」

ふと見ると、少年の顔がうっすら雲っている。

「おばちゃん・・・ドラえもんの声は、そんな変なガラガラ声じゃないよ。
全然にてないじゃないか。うそつき!」

砂山をぐしゃりと潰し、走り去っていく少年。のぶ代は何もいえなかった。

あたりは暗くなり始めていた。

「・・・僕、ドラえもん・・・」

「のぶ代と少年」の解説・感想