案山子

冬入り少し前の夕暮れ時のこと、僕は趣味のドライブで田んぼ道を走っている時に奇妙な光景を見た。

刈り取りの終わった一つの水田に、多数の案山子が並べられているのだ。

気になった僕は近くに車を停め、その水田に向かった。

案山子の並ぶ水田の周りには、農家の人と思しき姿の人が何人も集まっていた。

僕は近くにいた一人の男性に話し掛けた。

「すいません、コレは何ですか?」

「ああ、コレかい?コレは案山子の供養みたいなもんさ」

そう言って男性が指差した先に、お坊さんが見えた。

「毎年稲の刈り取りが終わった後に、田んぼを守ってくれた案山子に感謝を込めて、お炊き上げするのさ。燃え残りの灰は肥料になるしなぁ」

「なるほど……」

見回してみると、案山子の足元には新聞紙が丸められている。

あれに火を点けるのだろう。

「そろそろお炊き上げが始まるから、お前さんも見ていくといい」

そう言って男性はその場にあぐらをかいて座った。

程なくして、お坊さんの手短な念仏の後にお炊き上げが始まった。

それぞれの案山子に次々と火が灯っていく。

と、突然、一つの案山子が急に左右へ揺れだし、人語とは思えない呻き声を上げだした。

僕が口を開けて呆然とその様子を見ていると、座っていた男性が言った。

「どうやらあの案山子、霊が憑いてたみたいだなぁ。人形なんかと同じで、たまぁにこういう事があるんだよ」

男性が呑気にそんなことを話している間に、お坊さんが揺れ動く案山子に近付き念仏を唱えていた。

やがて案山子は全身が火に包まれた辺りで、動くのを止めた。

僕はホッとして、ふと隣を見た。

男性がその案山子を見て笑っているように見えたのは、気のせいだろうか。

「案山子」の解説・感想