引き返せ

『引き返せ』

俺がある山道を登っていると、
古臭い看板が立っていた。

ところどころに錆が浮いていて、
血の跡みたいでひどく不気味な看板だった。

『引き返せ』

看板にはそう書いてあった。

ドロドロとした、
怨念じみたものを感じ、
背筋がぞくっとした。

大人しく従ったほうがいい。

俺は直感した。

それで、
怖くなって看板の指示通りに引き返したんだ。

すると、
さっきはなかったはずの看板が立ち塞がった。

『引き返せ!』

また書いてある。

さっきよりも強い口調だ。

引き返せって行ったから引き返したのに。

俺は今来た道をもう一度引き返す。

さっきの看板が、
今度は違う文字に変わっていた。

『引き返せと言っているだろう!』

俺は指示に従っているのに、
この看板はなんなんだ!?

心なしか、
さっきよりも錆が侵食しているような気がする。

俺は恐ろしくて、
その看板に逆らうことが出来ずにまた引き返す。

『この先に進むな!』

『殺されるぞ!』

『大人しく言うことを聞け!』

『奴に殺されたいのか!?引き返せ!!』

俺はひたすら指示に従って、
同じ場所をうろつく。

看板の文字は毎回変わっていて、
明らかに異常な現象。

錆もどんどん侵食していって、
看板が徐々に赤褐色に染まっていく。

『閉じろ!もしくは引き返せ!この先を見るな!』

閉じろ?

何のことだろうか?

俺の荷物に閉じられるような物はない。

この先を見るな、と言われても、
看板の文字はそこで終わっている。

仕方がないので引き返す。

これがおそらく最後の看板だろう。

看板はもう錆に覆い尽くされていて、
真っ赤に染まっていた。

そこに書かれていた文字は、

『馬鹿な奴。
あれほど何度も忠告したのに。
お前だよ、画面の前のお前』

「引き返せ」の解説・感想