シートベルトを締めてエンジンをかけ、すっかり変わったな、と車内を見渡した。
俺は自分で言うのもアレだが、身の回りのモノに関するセンスが良いらしい。
典型的なのがこの車。
俺自身一目惚れして買ったのだが、仲間内の評判も良く、特にデートなんかで相手にカッコつけたいときなんかによく貸してくれと頼まれる。
俺も色々と世話になってるやつらだし、傷をつけたら弁償するとまで言っているから、別に渋ることもなく貸出を行なっていた。
ところが、最近になって俺の車がおかしな状態で返ってくることが多くなった。
壊れているとか、傷ついているとかじゃない。
変わっているのは、車の中だ。
簡単に言えば、俺が車内に置いていたものが無くなって、置いた覚えのないものがあったりするのだ。
置いていたものといっても芳香剤だったり、彼女がくれたヌイグルミだったり、そんなに大切というわけではないものばかりだったし、代わりに灰皿だったり(俺は嫌煙者だが)クッションだったりが置かれていくので、俺は何も言わずにその車に乗り続けていた。
今日は天気が良い。
海はまだ寒いな、山に行ってみるか。
この頃色々と調子が良い。
つい最近、仕事で上司に提案した企画が当たって、近々昇格することも決まった。
何だかうまく行きすぎてて怖いくらいだ。
~♪
「?電話か…小林?」
小林は一番最後にこの車を貸した、俺の同期だ。
返ってきたときは特に増えたものも減ったものもなかったけど、何か忘れ物でもしたのか?
「おう小林。どうした?」
『あぁ中野。車、ありがとな』
「なんだよ、礼言うためにわざわざ電話してきたのか?」
『いや、多分気づいてないと思ったから一応教えとこうと思ってさ。俺もさ、やったんだよ、物々交換」
「?でも特に増えても減ってもいないみたいだけど…」
『お前、昇格するんだよな。俺と今の会社辞めて起業したらやろうなって企画してたアレ、部長に言ったんだな』
「あ、あぁ…勝手に喋っちまったのは、その、悪かったと思ってるよ」
『別にいいよ。あの案、お前にくれてやるよ。その代わり…』
もうすぐカーブだ。
目の前に日差しを浴びて輝く海が広がる。
俺はブレーキに軽く足をかけた。
『ブレーキオイル、代わりに全部もらっといたから。じゃあな』
終わった………な