赤いコートの女

俺はしがない独身のサラリーマンだ。

最近は家と仕事場の往復のみ。

休日はたまに買い物に行くくらいだ。

ある日、俺はいつも通り、
仕事が終わり
帰宅するために電車に乗った。

俺がホーム側のドアの横に立っていると、
階段を女が駆け上がって来るのが見えた。

どうやらこの電車に乗りたいらしい。

しかし女は間に合わず、
ギリギリでドアを閉められてしまった。

(お気の毒に)

と思ったが、
俺の女への同情は消えた。

その女は、もう夏だというのに
真っ赤なロングコートを着ていたからだ。

少し見える足は細く青白く、髪は長く傷み、
化粧をしていない顔は見るからに不健康そうだった。

電車が発車し俺が女の前を横切る時に、
俺は女と目が合い思わずニヤついてしまった。

2日後の日曜日、
俺は、近くのショッピングセンターに行った。

そこで俺は見覚えのある人物を見つけた。

あの赤いコート女だ。

女は俺が買おうと思っていた酒の目の前で
ずっと同じワインを手に取り立っていた。

他に寄りたいところもあるので
さっさと買い物を済ませたかった俺は、
女の近くへ行き適当にワインを取った。

あの女が見ていたやつだ。

だがそんなことはどうでもいい。

俺はすぐにその場を離れた。

買い物を終えたあと、
見たい映画があったのを思い出し、
映画館に寄った。

チケットを買うために並んでいると
俺は寒気を覚えた。

またあの女だ。

俺の4つ前に並んでいる。

俺は逃げ出したくなったが、
今更引き返すのも嫌なので映画を見ることにした。

劇場に入ると俺は言葉を失った。

なんなんだあの女は。

俺の2列前に、
またあの女がいる。

チケットを買ってしまったので仕方なく映画を見た。

正直、内容はほとんど覚えていない。

映画を見終わった俺は足早に帰宅した。

次の日、よく眠れなかったが俺は出勤し、
頭が働かないまま1日を終え家路に急いだ。

俺はいつものように電車に乗ろうとホームで待っていた。

アナウンスが流れ、
電車が見えてきた。

俺の目の前に電車が来ようとしたその瞬間、
俺は誰かに突き落とされた。

誰だ?

俺はわけが解らなかったが、
とっさに体を反転させた。

あいつだ。

あの女が俺を突き飛ばしたんだ。

(このストーカーめ、ついにやりやがったか)

そんな思考が一瞬のうちに頭をよぎった。

そして、俺が電車に轢かれる瞬間、
あの赤いコートの女ははっきりこう言った。


『これでやっと解放されるわ』

「赤いコートの女」の解説・感想

  1. 勘違いだよ〜気づいてまっ…もうおそいか…