フリーター

俺はこのアパートで貧しい暮らしをしているフリーターだ。

もう家賃すら払えず、
ガスや電気すら止められた状態で
ギリギリの生活をしている。

家主に全く追い出そうとされないのが唯一の救いなのだ。

隣の住人も俺と同じような状態なのだろうか、
電化製品の動く音やガスコンロの燃える音など
こちらに一切聞こえない。

俺は隣の住人のことはよく知らないが、
一度だけ廊下で会ったことがある。

顔が痩せこけて、
まるで幽霊の様だった。

それだけではない。

こちらから話し掛けても、
挙動不審な態度を見せて行ってしまうのだ。

思い返せばやはり気味が悪い。

もしかとすれば、
本物の霊かもしれない。

アパートの別の住人に聞こうとも思ったが、
部屋にこもってばかりだったこの俺には、
よく知らない相手と話すのは敷居が高かった。

そこで、俺は自称霊感持ちの友人に、
駄目もとでその男について尋ねようと、
そいつの家へ行った。

彼について話すと、
友人は言葉を濁すばかりだった。

友人は最後に

「ちゃんと話せなくて悪いね」

と言って話を終わらせた。

やはり霊感なんて無いんだな、
内心そう呟きながら俺は友人の家を後にした。

しかし、
それからその友人は本物の霊感者として
近所の間で有名になったそうだ。

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