時効

長かった……。

いつも何かに見られているような気分だった。

常に背後を付き纏う、視線に似た感じ。

そんな日々からようやく解放される。

明日になれば俺は解放されるんだ。

時効まであと4時間

14歳の時、
金欲しさに隣町の適当に侵入した家で
金目になるような物を盗んでいた。

運悪く、
ちょうど帰宅した婦人に目撃されてしまい、
焦った俺は近くにあったガラスの灰皿で婦人を殴りつけた。

何度も何度も…。

何度も何度も……。

婦人が動かなくなった事を確認した俺は、
入念に指紋を拭き取り、
全ての痕跡を消してからその場から逃げた。

必死の捜査も虚しく、
強盗殺人事件は迷宮入りになった。

まさか犯人が14歳の中学生だとは
警察も思わなかったのだろう。

その後、俺は平然と日々を過ごし、
高校、大学、そして社会人となった。

今日は時効まで逃げ切った祝いに、
という訳では無いが、
高校時代に知り合った友人と飲むことになっていた。

道で偶然出会い、
都合がついたら飲もうと約束していたのだ。

それが今日だ。

俺は予定の時間よりも早く着き、
居酒屋で友人を待っていた。

時効まであと3時間半

約束の時間から30分経った頃、
スーツ姿の友人が店内に現れた。

俺『遅ぇーよ、馬鹿』

友人『わりぃわりぃ、
仕事が忙しくてさ。
今バタバタしてて、
でも、何とか時間作ってきた』

俺『年末だからな。大変だな。
何の仕事してんの?』

友人『大した仕事じゃねーよ。
いつも走り回ってるような仕事だ』

俺『あそう。まぁ、今日は飲もうぜ』

高校以来の再会で、
お互い思い出話に花が咲き、盛り上がった。

合間に、触れてはいけない話題も振ってしまったが、
一瞬だけ顔を曇らせただけで、すぐに陽気な顔で

友人『気にするなよ。
まぁ、それがきっかけで今の仕事に就いてるんだけどな』

と言ってくれた。

酒の酔いもあり、
こいつだけなら打ち明けてもいいか、と思い、
打ち明けることにした。

時効まであと10分

俺『ここだけの話なんだけどよ、実は俺……』

周りの客に聞かれないよう、
小声で話した。

時効まであと5分

俺『……ってゆうこと。
いやー、まったく長い日々だったぜ』

友人はあまりの衝撃からか、
すっかり酔いから醒めてしまった様子で俺を見つめている。

そりゃそーだ。

俺『さっきから時間気にしてるけど、
何かあるのか?』

友人『いや、まだギリギリ大丈夫だ。
…そうか。お前だったのか』

時効まで残り1分…

ヒンヤリとした物が当たる

え、…え……?

『間に合ったよ、母さん』

「時効」の解説・感想